名前の無いノート

研究者見習いが名前の書かれてないノートに雑多なことを書き綴ります。

Parametric Move -動きをうごかす展- に行ってみた

自己紹介

はじめまして。

なもなき(@)と申します。

本業はとある企業でロボットやアバター等、ヒトならざるものと人とがより良いお付き合いをするためのインタラクションの研究を行っております。

日々の仕事に追われてなかなか世間に自分のプレゼンスを高められないことについてモヤモヤしていたところ、知り合いのくまぎさん(@)さんに「お前ウジウジしてるぐらいならブログの一つでも書いてみろよ ブログ書いたらいいんじゃない」と言われたためブログを初めてみることにしました。

これから不定期に記事を書いていく予定ですので、よろしくお願いいたします。

「動きをうごかす展」インプレッション

「動きを動かす展」とは

さて、初回ブログは私が伺った「動きをうごかす展」のご紹介及びレビューを僭越ながらさせていただきたいと思います。

動きを動かす展(http://www.design-lab.iis.u-tokyo.ac.jp/exhibition/proto2018/)は、東京大学で教授をされている山中 俊治先生の研究室がメインとなって行っている、様々な形態のロボットが動く様子を見ることができる展示会となっております。

山中先生はデザインエンジニアリングを主な専門分野としており、以下に専攻分野についての詳しい説明がなされております。 https://www.ashita-lab.jp/special/5441/

また、展示の特徴として各展示に小さなダイヤルやスイッチが存在しており、ツマミを自分が回すことでそれらのロボットを「動かす」ことができることを特徴としています。

また、ゲスト展示としてTwitterで大きな話題となったTODO(@)さんが作成されたロボット「SEER(https://twitter.com/toodooda/status/963673296733646858)」をリアルで見ることができるということで話題を集めております。

6月15日にちらに伺わせていただいたので、私のブログ練習を兼ねて簡単に各展示の紹介とかなり私的な感想を述べさせていただきます。(記事公開現在既に展示は終了しておりますのでご了承ください)

また、私のブログでは各展示の写真については静止画のみにとどめます。各作品の動いている様子が見たい方は以下の記事などをご参照いただければと思います。(写真によっては影になってるのもあったり……申し訳ありません) https://fabcross.jp/topics/event_report/20180611_parametric_move.html

展示物紹介、感想

Ready to crawl

f:id:namonaki777:20180617211247j:plainf:id:namonaki777:20180617211309j:plain

モータ以外のすべてのパーツを繋げて3dプリンタで印刷した一群の展示です。つまみを回したり手を近づけたりすることでロボットのすべてのパーツが連動して動作します。

人間や生物の骨はある意味すべてつながっていて、それぞれが連動して動くことで人間の動きを作り上げているのですが、この作品群にはそれと似たような機能美を感じました。

Breathing skeleton

f:id:namonaki777:20180617211418j:plain 人間の肋骨の動きを再現した作品です。

先程のReady to crawlではある種の抽象的な象徴として生物を思い起こさせるような作品でしたが、この作品ではより直接的に人間の肺呼吸の再現を行うことにより、すべてのパーツが無駄なく目的を持って動く様子が見て取れます。何億年もの年月をかけて進化を行ってきた生物の一つの到達点としての美しさ感じることができました。

Waving memory

f:id:namonaki777:20180617211453j:plain 人との接触を波として表現した作品です。

先程までの展示と比べて抽象度が高く、つまみを回して動きを変えてみてもコンセプトが伝わりづらい印象を受けました。おさわり禁止だったので充分な体験を行うことができなかったのですが、もし触ることができたらもっと違った印象を受けたのかな、と思いました。

FoG

f:id:namonaki777:20180617211951j:plain 擬人化の度合いが変化する球体です。

ユーザの期待度合いについて擬人化度合いが変化するというコンセプトは非常に面白い発想だと思いました。このあたりはまさに自分の中ではホットになっている分野で、面白く見させてもらいました。

ただ、自分の想像力が貧弱なせいもあり、今回の作品の抽象度ではつまみを回すことで実際に擬人化度合いが変化しているかというとそこまで感じることはできませんでした。ただ非常に面白い着想であるため今後に期待したいところです。

E.E.E

f:id:namonaki777:20180617212022j:plain 動物の耳による感情表現を抽象化して表現した作品です。

犬や猫などの生物は人間と違い耳としっぽを動かせるため、人間とはまた違った方法で感情のやり取りをしているのかな、と感じました。 それでいうと以下のURLみたいな尻尾デバイスと関連した感情表現を模索してみると面白いかもしれないと思いました。

Parametric tube

f:id:namonaki777:20180617212051j:plain ナイロン繊維に引っ張る力とねじる力を与えることで形状を変化させることのできるチューブです。

単純な繊維のかたまりが単純な応力により様々に形を変化させる様子が面白かったです。

個人的な感想ですが、チューブが膨らむ様子はカテーテル治療のバルーンを思わせました。

Walk

f:id:namonaki777:20180617212500j:plain (実物の写真を撮り忘れていました……申し訳ありません)

自然物をでたらめに組み合わせた物体が動きを獲得する過程を表現した作品です。

他の作品とは異なり、未整理だったり、荒々しかったり、生命の始まりを感じさせるような印象を受けました。

あまりにでたらめすぎて時には一歩間違えると意味を持たないゴミのような印象を受けてしまうこともありました。

天井のシミが顔に見えてしまうように。意味のないものに意味を見出そうとしてしまうのが人間のサガであり、その点で言えば意味のないゴミと意味のある物体は紙一重なのかな、というふうに思いました。

Aerial biped

f:id:namonaki777:20180617212556j:plainf:id:namonaki777:20180617212617j:plain

重力から解き放たれることによりエレガントな歩行を行うロボットを表現した作品です。

発想は面白く、動きも新しいと思うのですが、宙に浮いたことにより歩くという機能の必然性がなくなってしまい、機能的な美しさは失われてしまった印象を受けました。何故か「無駄に洗練された無駄のない無駄な動き」という文面が脳裏をよぎりました。例えば我々が月面に生活するようになり、歩くために現状の筋肉の動きを必要としなくなったとしたら、このような新たな動きを模索し始めるのかも、と思いました。

あと、地味に床面のディスプレイが歩行に併せて動いているのが良かったです。

SEER

f:id:namonaki777:20180617212705j:plainf:id:namonaki777:20180617212721j:plainf:id:namonaki777:20180617212730j:plainf:id:namonaki777:20180617212829j:plain

言わずとしれたTODOさんの作品で、ある意味本展示の文字通り目玉と言って良い作品です。目を中心とした人間の様々な表情を動く胸像として再現した本作品は、Twitter等で多くの話題を呼びました。 本展示では、胸のあたりに超小型のカメラが取り付けられており、人の顔に向かって視線を投げる機能も追加されていました。 この機能はなかなかに強力で、一人称ではなく三人称から見ても「あ、あのひとと今目が合っているな」と認識できるほどでした。(TODOさんに直接伺いましたが、カメラ→人の顔ベクトルをロボットの目→人の顔ベクトルに変換するのはもちろんのこと、顔の大きさを使って擬似的に距離感を測る機能も入れているようです)

この作品が生み出すプレゼンスや表情の豊かさは動画を見て知っていたのですが、特定の誰かを向く、というのは凄まじいプレゼンスを作品に与えるな、と思いました。(手などでカメラが隠れているときもランダムな注視点を用意したり、見つめる場合も長時間見ずに途中で目をそらしたりするなど、細かい工夫も有効に働いていたと思います)

「言葉なくとも人間は通じ会える」とはよく言ったものですが、この作品は文字通り通じ合えている感覚を我々に与えてくれるものであり、TODOさんの作品に対する執念をも感じさせるような一品でした。

ただ、私が伺ったときは若干モータの動きがカクカクしており、長期間展示の影響による疲れを感じさせました。次会うときはもっと元気な状態のときに会えたらいいな、と思いました。

正直なところ、現状では対話AIがあまりに貧弱すぎるため、彼(彼女?)に言葉を与えることは彼のプレゼンスを剥がすことにしかならないと思います。今後の技術革新により彼のプレゼンスに耐えうるようなAIが生まれるのだろうか、それが生まれた場合人間と「ヒトならざるもの」の関係性はどのように変化していくのだろうか、と考えてしまいました。

全体の感想

どのロボットも新しいコンセプトを我々に提示しており、非常に面白い作品でした。また、本展示の特徴である「全展示につまみを設けて、実際に自分で動かせるようにする」というのが非常に面白く、何度もつまみを回して動作の変化を楽しませていただきました。

これはひとえに山中教授及び作品を作られた方々の作品への思いや遊び心の賜物であり、今後もさらなる作品作りに勤しんでいただきたい所存であります。

ただ、その中でもゲスト展示であるTODOさんのSEERは別格であったと思います。一時期は人生を悲観されるようなツイートをされており心配しておりましたが、良い支援者に恵まれたことを非常に喜ばしく思うとともに、自分も社会に少しでもインパクトを残せるように邁進しなくては、と思いました。

また、余談ですが展示を見させていただいたのが展示会の後半であることもあり、自分が出るときには複数の作品でモーターがうまく動かないなどの不具合が見られ、調整中の札が掲げられていました。やはり一点ものの作品はまだまだ安定して長期間動かすのは大変だよな、と(今までの自分の体験も相まって)思いました。

おわりに

今回は自分の本業に比較的近いロボット/エンジニアリングデザイン系の展示会のレビューをさせていただきましたが、今後はXR系、特に最近話題となっているOculus GO等に対する自分の考えややってみた系の記事を上げていきたいと考えております。

以上、よろしくお願いいたします。